偽りの結婚
そして、朝が来るまで一人と一匹で過ごした。
朝になったらお別れするつもりだったのだけど、ディランは私から離れず困ったのを覚えている。
ディランが森から出ることはなかったけど、私が森に来るたびに匂いを探して寄ってくるようになった。
きっと私を母だと思ってしまったのだろう。
群れからはぐれたディランは孤立してしまって。
私も本で狼の習性を知ってからはディランを引き離すことをせず、怪我が治るまで一緒にいた。
あれから随分と時が流れ、ディランは大きく成長した。
座った状態でも私の体半分はあろうかという程の大きさだ。
「ディラン元気だった?」
柔らかい銀色の毛並みを抱きしめつつそう言えば、私の問いかけに答えるようにクーンと鳴くディラン。
怪我が治るまでだと言い聞かせたけれど、ディランから離れられなかったのは私の方だった。