偽りの結婚
「本当に違うの……」
今にも彼女たちに食ってかかりそうなラルフを鎮めるように真剣なまなざしを向ける。
「分かった。もう喋るな…体に触る」
どこか苦しげな表情でそう言うと、支えていた腕を回し軽々と抱え上げられる。
そして、何事もなかったかのように野次馬をかき分けて歩き出すラルフ。
「ラルフ…大丈夫、自分で歩けるわ」
ラルフの腕に抱えられ、焦る。
周りの目があって恥ずかしいし、何よりドレスが水を吸ってだいぶ重いはずだ。
「黙っていろ。このまま王宮まで連れて帰る」
「………」
どこか苛立たしげな表情のラルフに、何も言えなくなる。
ふと、視線を感じた。
見れば、先程ラルフに睨まれていた令嬢たちだった。
ばつの悪そうな顔をしながらこちらを見ている。
その視線にラルフも気付いたのか、その脚は令嬢たちの前で止まる。