偽りの結婚
「グレイク侯爵、妃の体が心配なので今日はこれで退席させてもらう」
野次馬の中にいた今回の主催者に対して脚も止めず告げる。
誰もが見惚れる笑顔で、しかし有無を言わせない物言いだ。
「え、えぇ…そうしてください」
来てまだ1時間と経っていなかったが、ラルフの物言いに圧倒されたのか、承諾の言葉を口にするほかないグレイク侯爵。
50を超す男性が、25の青年に圧倒されているのは妙な光景だった。
これが、人の上に立つ王族の風格なのだろう。
「今日はありがとうございました。皆さんはそのまま続けてください」
いつもの王子スマイルで、王子らしい台詞を吐く。
そして、私を抱えたまま馬車に乗り込み、王宮へと帰って行った。