偽りの結婚



髪を梳くのは彼の癖らしい。

黙って髪を梳かれていると、横でシャッシャと紙にペンをすべらせる音が聞こえてくる。




何をしているのかしら…


とても気になるが、寝たふりをしたことで起きるタイミングを完全に失っている今、目を開けて確認することもできなかった。






「ブライト公爵家にトラスト侯爵家、ウォール侯爵家…か。よくもまぁこんなに舞踏会を開くものだ」


書類をペラペラとめくっている音が聞こえる事から、この部屋で仕事をし始めたことが分かる。




公務…まだ終わってなかったのに来てくれたのかしら。



ラルフの公務とは国家や国民の利益や福祉のために慈善事業を行ったり、実際にその地を訪問したりするものから、ラルフの許可のいる書類へのサインまで様々ある。

今隣でやっているのは書類へのサインだろう。

しかも、それらのほぼ全てが舞踏会への招待状のようだ。




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