偽りの結婚
「いいのよ。この前は嬉しい報告が聞けたしね」
疑うことを知らないのか、ソフィアは軽い調子で答える。
“嬉しいこと”という言葉が引っかかる。
「っ!!それは言わない約束だろう」
少し焦ったようにラルフは言う。
その顔は珍しく頬を赤く染めていた。
「そうだったわね。あれは二人の秘密にしておきましょう」
ラルフとソフィアは目を合わせて笑っている。
二人が隠していることは、もう分かっていた。
それはきっとあの密会での出来事で。
けれど“嬉しいこと”については考えたくなかった。
二人の間で交わされる秘密ともとれるような会話に、一人置いてけぼりで一層疎外感を感じた。