偽りの結婚
パンッ―――
現実に引き戻したのは、ソフィアが胸の前で手を合わせる音。
「さて、そろそろお隣の可愛いご婦人をご紹介して下さる?」
キラキラと期待を込めた琥珀色の瞳に見つめられ、ドキッと大きく鼓動を刻んだ。
ラルフに抱きしめられた時のようなドキドキと甘い鼓動でもなく。
ラルフとソフィアが密会していたと聞いた時のようなズキズキと軋む鼓動でもなく。
今は、ドクンドクンと自分の耳にさえ入ってきそうなほどに大きく響く鼓動だった。
ソフィア様にとってラルフと結婚した私は邪魔でしかないはず。
嫉妬に駆られた令嬢たちのように侮辱の視線を浴びせられるか、はたまた、冷ややかな視線を浴びせられるか。
どっちにしても、自分に勝ち目のない私はただただラルフが口を開くのを待っていた。
「紹介が遅れてすまなかった。シェイリーンだ」
ソフィアに悪いと思って、ラルフと距離をとっていたが、言葉と共にグイッと腰を引き寄せられる。