偽りの結婚
夕暮れ時――――
何とか日が沈む前に帰り着くことができた。
夕食にも間に合いそうだと分かりほっとする。
森を抜けて開けた土地に出たところで見えてきたのはポツリと立った屋敷。
大きいだけで荒れ放題の屋敷は私の家だった。
壁はところどころ剥がれ落ち、手入れが行き届いていない庭はいつも通り。
しかし、今日はいつもと様子が違った。
いつもはこの時間についているはずのない灯りが窓から零れているのだ。
「まさか……」
少し焦りながら家までの残りわずかの距離を走って行く。
キィー……
古びた扉を押してパタン…と後ろ手でドアが閉まると同時に、二つの視線が私を捉える。
「シェイリーン、遅いじゃない。私達がどれだけ待ったと思ってるの!」
「もう食事は要りませんよ。外で食べてきましたから。」
帰るなり厭味を口にする二人の女性は私の母と姉。
表面こそ淑女の雰囲気を纏う母親の視線は冷たく、姉は明らかな苛立ちをぶつける。
この時間ならまだ帰っていないと思ったけど…
「分かりました」
姉の苛立った言葉に対抗するでもなく、母の冷たい態度に嘆くわけでもなく、ただ一言だけそう言う。
そして、足早にその場を去ろうとした時。
「ちょっとはましな格好をしたらどうなの。こんな人のが妹だなんて、スターン伯爵の名が廃るわ」
綺麗なドレスに身を包み、体中に宝石をちりばめた義姉のイリアがみすぼらしいものを見るような目でつぶやく。