偽りの結婚




頭に浮かんだのはアリアでもディランでもなく、ラルフだった。

けれど今ラルフは離宮にいる。

ここに居るはずもない人を想って孤独に震えた。



「ふっ…く……たす…けっ…」


不安と孤独と雷鳴と。

遂には抑えきれなくなった恐怖が涙となって溢れてくる。

嗚咽となって出てくる声は雷音にかき消された。




「ラル…フ…っ……」



声を絞り出すような切ない声で愛しい人の名前を呼んだ時――――



――――ガバッ

何者かにマント越しから抱き込まれる。




「やっ…やあああ……」


突然自分の体に回った腕に、悲鳴を上げ抵抗する。



だれ……?

いやっ…こわい……


今やマントを握る手が白くなるくらいにギュッと握りしめ、体はガタガタと震えていた。



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