偽りの結婚
「少し経ったら慣れます…」
それは精一杯の強がりだった。
なぜなら、私には虚勢を張らなければならない理由があったから。
そして、意を決して言葉にする。
「……だから、ラルフは離宮に戻って」
頬にあてられていたラルフの手をやんわりと取り、身を切るような想いで声を絞り出す。
ラルフが私を心配してここに来てくれたのは嬉しい。
けれど、ラルフがここに来たことでソフィア様はどう思うだろう。
ソフィア様の気持ちを考えると、そう言わざるを得なかった。
しかし、ラルフは私の言葉に軽く目を開いたかと思えば顔をしかめる。
そして、苛立ちを抑えたような声で話し始める。
「それがさっきまで泣く程震えていた者の台詞か?」
「っ…!……さっきはいきなり抱きつかれてビックリしただけです」
ラルフの言葉で急に冷静になる。
そう言えば、さっき私…自分からラルフに抱きついた?
ボンッと音が出そうなくらいに顔を真っ赤に染め上げて、事の重大さに気付く。
なんだかいつもの自分じゃない自分を見られた恥ずかしさで、すぐにバレてしまいそうな嘘をついてしまった。