偽りの結婚
グイッ――――
「っ……!」
ラルフの強い力に引かれたと思ったら、ふっと自分の体が浮く。
突然の浮遊感にバランスをとれなかった私はラルフの首に腕を回した。
「それでいい」
自分の首に回った腕に満足そうなラルフは、スタスタと歩きだし寝室を出た。
「ちょっ…!どこへ行くの?」
無言で抱き上げられ、スタスタと歩くラルフに不安を覚え、非難の声を上げる。
……が、先程から今にも雷が落ちそうなゴロゴロという音で気が気じゃない。
「別の部屋だ。あの部屋は窓が大きすぎる」
そう言って入ったのは、普段私達が入ることのない使用人の部屋。
シーンと静まり返るその部屋から、この部屋の主はおそらく離宮に行ったのだろうことがうかがえた。
「ここなら窓も小さいし、寝室よりはましだろう?」
部屋の灯りをつけ、私を抱えたまま話す。
ここへ来たのは私のため……?
そう分かった瞬間、非難の声を上げていた口は閉じ、瞬く間に顔を赤くして黙り込んだのだった。