偽りの結婚
ギュッ――――
「えっ……?」
視界いっぱいにラルフの着ていた真紅の衣が映ったかと思ったら、グッと腕の中へと抱き込まれる。
背中に回された腕と、髪の毛に差し入れられた手でラルフの逞しい胸に押しつけられるようにして……
「…っ!いやっ……離して」
本当は離してほしいわけじゃなかった。
ただ、自分を抱きしめる腕の中の心地良さや、甘く疼くこの感覚に慣れたくなかったから。
この感覚に慣れてしまったら余計離れられなくなってしまいそうで…
「離さない」
腕の中でジタバタともがく私を、抑え込むように力を込めるラルフ。
「一人で我慢して、震えて…君は今まで一体どれだけ孤独な夜を過ごしたんだ?」
その言葉に、今まで腕の中でジタバタともがいていた私の動きがピタッと止まる。
そして、みるみるうちにその体から力が抜けていった。
そんなこと……ラルフにとってはどうでもいいはずよ……
現に今までそんなことを気にするような人は誰一人としていなかったのだから。
家にいる時はミランダとイリアが同じ家にいたが、私には無関心。
かといってディランを家に連れ込むわけにもいかずいつも一人で震えていた。
私の変化に気付く者など誰一人としていなかったのに…