偽りの結婚
私の瞳には今にも溢れだしそうなほど涙が溜まっていた。
「だから、隠れて涙を流すなと言っている」
困ったような笑みを浮かべながら、私の髪を分け額に口づける。
チュッと、軽く触れるだけの口づけだったが、私の涙を止めるには十分な威力を持つもので…
ラルフの所業になっ…なっ……と、言葉にならない声を上げる。
そして、恥ずかしさに耐えられなくなり、ラルフの腕の力が緩んでいたのを良いことに、後ろへ後ずさる。
「なぜ逃げるんだ?」
私が腕の中から消えたことで、気に入らない、と言うように眉を寄せるラルフ。
「貴方が変なことするからでしょう!」
顔を真っ赤にして答える。
「君の涙を止めようと思ったんだ」
ラルフはケロリとした表情で言ってのける。
まるでキスが挨拶だと言わんばかりの口ぶりだ。
「だからって、キ、キスしないでください!」
ラルフにとってキスは挨拶みたいなものかもしれない。