偽りの結婚
前にも人前で頬にキスされたこともあったし…
ラルフにとっては挨拶みたいなものでしかないのだろうけれど、こっちはその一つ一つに反応してしまうので大変だ。
そう思って、ラルフを警戒していると――
「分かった分かった。もうしないよ」
額にはね…と、ぼそっと呟いたラルフの声は私には届かなかった。
「何もしないからこっちへおいで」
手を差し出すラルフ。
それに素直に答えるわけにはいかない私は…
「……ソフィア様の所へ戻ってください」
「まだ言うか。本当に見かけによらず頑固だ」
ラルフは本日何度目か分からない台詞を吐く。
「いいかい?僕は離宮へ戻らない。それは君を一人にさせておくと心配だということもある。けれど、それだけじゃない。…外を見てみろ。この雨では離宮へ戻る事さえ難しい」