偽りの結婚
「ありがとうございます」
ほっと、安堵の溜息をつく。
帰りの遅いラルフ、そして付き人のいない一人きりの一日。
条件はそろった……
「さて、僕はお姫様を送りに行かなくてはいけない」
ズキッ―――
暖かなぬくもりが離れて行ったことを寂しく思い、覚悟したはずの心が痛む。
けれど、もう終わりにするって決めたから…
「いってらっしゃい…」
「あぁ、行ってくる」
そう言って寝室のドアに向かうラルフを見送る。
その背に向かって、さようなら…と小さく呟きながら…
ラルフが出て行った後の寝室―――
私は鉛のように重たい体を引きずりながら寝室に設置された小さなバスルームへ向かう。
少しの距離なのに、ズキズキと腰が痛むせいでバスルームまでの距離が長く感じた。
やっとのことでたどり着き、熱いシャワーを浴びながら体を清めていると、ふと鏡に映る自分を見つめる。