偽りの結婚
濡れた髪を乾かし、クローゼットをあさって、適当な服を見つけると私は再びベッドへ座る。
そして、おもむろにサイドボードにあった紙にペンを走らせ始めた。
スラスラとペンを走らせるその手に、迷いはなかった。
最後にその紙を折り、適当な封筒に入れる。
「これでおしまい」
呟いた言葉は、虚しく寝室に響く。
書いた手紙はそのままサイドボードに置き、ショールを取って寝室の扉に近づく。
一度振り返り、寝室を見渡す。
王宮に来た時となんら変わらない調度品の数々。
ここと、書庫が私の数少ない安らぎの場だった…
「さようなら」
誰もいない寝室に向かって一言呟き、寝室を出た。
廊下に出ると、王宮で働く使用人たちが各々の仕事をしていた。
私を見かけては「シェイリーン様、おはようございます」と声をかけられ、ドキドキしながらも、いつも通り「おはようございます」と答え、怪しまれないように平然を装う。
モニカがいなくて良かった…
鋭いモニカの事だ、きっと“どこへ、何をしに行くのか”ということを聞かれていたら隠せる自信はなかったから。