偽りの結婚

トントン―――


辺りも薄暗くなった夕方、立派な屋敷の扉を叩く音が鳴る。

遠慮がち響いた音は聞き逃してしまいそうな程小さく、他なら気付く者もいないだろう。

しかし、この屋敷の有能な執事は違った。





「シェイリーン様ッ！？」


開けるなり、驚いた表情をする初老の男性。



「ウィリオットさん。アリアはいますか？」


憔悴しきった表情で扉の前に立った私は消え入りそうな声で手短に話す。




「アリア様なら自室におります。まずはお入りください。」


初老の男性、ウィリオットは私に異変を感じながらも、何も聞かずに通してくれた。




ウィリオットに通された部屋はノルマン家の応接室。

目の前に出された紅茶とクッキーには手もつけず、私は一人じっとアリアが訪れるのを待つ。



暫くの後、廊下をバタバタと走る音が聞こえる。

こんな走り方をするのは一人しか知らない。



その人物は、応接室の前まで来ると、バンッと勢いよく扉を開ける。