偽りの結婚
愛しい存在
私がノルマン家で眠りについたちょうどその頃、王宮のある一室で呆然と立ち尽くす男が一人。
9時に帰ると知らせていたが、思いの他視察が長引いてしまい、約束の時間には戻れそうになかった。
それでも、早く王宮へ帰りたいと思い、馬を走らせて帰ってきた。
それこそ護衛についていた従者たちを引き離して帰ってくる程に早く。
しかし、いつも寝室で帰りを待ってくれているはずの存在はなかっ
「シェイリーン?」
そこにいないことは明らかだったが、彼女の名前を呼ぶ。
「こんな時間にどこへ行ったんだ?」
訝しげな声を上げたこの部屋の主、ラルフが呟く。
いつもなら、ベッドで本を読んでいる時間のはず・・・
ほぼ毎日公務で遅くなるので、先に寝ていていいと何度か言って、シェイリーンもそれに頷いていたが、結局毎回自分が帰るまで待っていてくれていた。
焦ったように読んでいた本を閉じ、先に眠ってしまうのには少し不満だったが、帰りを待ってくれる人がいるのも悪いものではなく。
自分にとって、そんなシェイリーンを抱きながら眠りにつくのが日課だった。