偽りの結婚
男を知らない初々しい反応や、王族である自分に媚びない態度。
作り笑いなど一切せず、笑った顔など見たことがなかった。
シェイリーンが自分に見せる表情と言ったら、呆れた顔や困った顔だけ。
自分のプライベートな空間まで入ることを許したのはそんな彼女だったからだろう。
その関係がおかしくなったのは、グレイク侯爵のパーティーに呼ばれた時からだった。
それまで、呆れた顔や困った顔しか見せなかった彼女が、クスッと遠慮がちな笑顔を見せた時―――
心の底から笑った彼女をみて、時間が止まってしまったのではないかと思うほどに全ての動作がストップした。
そして、次の瞬間にはドクドクと早鐘を打つ心音。
数多の女と浮名を流してきて、美しい令嬢たちの笑顔など身飽きていたと思っていたが、それはたった一人の少女の笑顔で塗り替えられたのだった。
柄にもなく赤くなったあの瞬間を今でも覚えている。
あの時には、もうすでに落ちていたのかもしれない。
19の少女にしては大人びていて、こちらが参ってしまうくらいに気丈な性格で。