偽りの結婚
8章 真の妃
諦めきれない気持ち
ベルナルドが出て行って、シンと静まり返るノルマン邸の一室。
未だ慣れないベッドの上に座り、窓の外の月を見つめる。
アリアは客室用の部屋を使ってほしいと言ったが、それは丁重に断った。
宿を借りている身で、そんな豪華な部屋には泊まれなかったからだ。
しかし、この使用人の部屋も以前のスターン家に比べれば十分すぎるくらい立派な部屋だった。
ふかふかのベッドがあって、書庫もあって、友人たちが近くにいて。
十分すぎるくらいの幸せがここにあるのに…私の心はぽっかりと穴が開いたように、何かが抜け落ちていた。
それが、何なのかは分かりきっている。
昨日の今日で寂しいと思うなんてダメね…
冷たいシーツを手で撫でながら、王宮の寝室を思い出す。
キングサイズのベッドは広すぎたけれど、体の大きいラルフと寝るとちょうど良かった。
「ラルフはどうしているかしら」
ポツリと呟いた言葉に、ハッとする。
また…だわ……
離婚をすると手紙に書き残して、王宮を抜け出してきたのはラルフを諦めるためなのに。
ふとした拍子に頭によぎるのは、いつもラルフの事ばかり。