偽りの結婚
「どうぞ」
こんな時間に誰だろう…と思いつつ声をかける。
時刻はすでに9時を回っており、ノルマン邸の使用人も出歩く時間帯ではない。
「お邪魔するよ」
「ベルナルドさん」
部屋に入ってきた人物に驚く。
「夜遅くにすまない。今いいかい?」
「えぇ、大丈夫です。どうしたんですか?」
すまなそうに聞くベルナルドに笑顔で答える。
「少し、話をしたいと思ってね」
承諾を得たベルナルドは部屋に入る。
そして、窓の傍に来ると、ベッドに座っていた私の方に向く。
「ここには慣れたかい?」
月の光を背に浴びたベルナルドが問う。
「まだ少し…こんなに良い部屋を与えてくださって申し訳ないです」
もう一日が経ったと言うのに慣れないのはやはり、部屋のせいではない。
けれど、そんなことを言って、困らせるのも悪い気がした。
良心からこの部屋を貸してくれているノルマン夫妻に申し訳が立たないし…