偽りの結婚
段々とこちらへ来るとその顔が明らかになってくる。
「どうしました?迷ってしまわれましたか?」
そう言った男は思っていた人物その人であった。
ブロンドの髪に甘いマスク。
スラリと高い身長にがっしりとした身体。
まるで絵本から抜け出した王子様の様な容姿の男性は、実際にこの国の王子。
「ラルフ…様」
声が掠れる。
一瞬“ラルフ”と言いかけそうになった。
ラルフなぜここに…?
先程までラルフに近づける方法はないものかと考えていたにもかかわらず、いざ目の前にあらわれたら焦る。
向うから来られると、なんでこんなにも逃げたくなるのか。
覚悟はとうについているはずなのに。
けれど今はラルフの問いに答えなくては…
「あの…王宮の庭を見たくて抜け出してきたんです。それにあのような場所は苦手で…」
なるべく、自分だと分からないように小さい声で呟く。
そしてふと自分の言った言葉にいつかの記憶がよみがえる。
この状況…どこかで……