偽りの結婚
「僕たちの婚約は親同士が勝手に決めた事だ。当時からソフィアには恋人がいたが、モルト王国より我が国の権力の方が強かったので断れなかったらしい」
やはり王族という身分は大変なのだ。
自分の与り知らぬところで勝手に婚約をしてしまうのだから。
「国と国の亀裂を生まないためにも、一旦婚約をして、こちらから婚約破棄をするのが一番差し障りがない方法だった」
ソフィアに恋人がいて婚約を破棄したのは分かった。
しかし、私には一つ引っかかっていたことがあった。
「けれどソフィア様はラルフとすごせる時間が少しでもある事が羨ましいって言っていたわ」
思い出されるのはソフィアの切ない横顔。
明らかに哀愁の色を含ませた表情に、ソフィア様はラルフの事が好きなんだと思った。
「それはソフィア自身が恋人と会える機会が少ないからだ。ソフィアの恋人は身分が低くてね。周りに反対されるような関係だったから、偽りでも一緒にいることが出来ることが羨ましかったんだろう」
ラルフは少し表情を曇らせそう答えた。
ソフィア様も私と同じような思いを抱えていた?
身分の上下は逆ではあるものの、周りから反対されるような恋を…
だからあの時あんなに切ない顔をしていたのだろうか。