偽りの結婚
それを知覚した瞬間、止まっていた時間が動き出す様に心臓がバクバクと早鐘を打ち、頬に熱が集中するのがわかった。
心を落ち着かせるために、胸の前で握っていた手にギュッと力を入れる。
走馬灯のように駆け巡るこれまでの日々。
望まぬ偽りの結婚をして、嫌々ながらに始まった奇妙な夫婦生活。
最初から、二人の間には愛などという感情は一切なかった。
だからこそ、ラルフの優しさに触れ淡い思いを抱くようになった時は苦しかった。
どんなに望んだところで自分とラルフの関係は“偽り”のみ。
偽りの関係である限り欲しいものは決して手の届かないところにあったこの想い。
そこにあるのはひたすらに胸を締め付ける切なさと深い悲しみだけだった。
けれど……
この気持ちを偽らなくても良いの?
欲しいと言っても良いの?
自分に問いかけながら胸に熱いものが込み上げ、瞳に涙を湛える。