偽りの結婚
しかし未だ濃厚な口づけに慣れない私は必死にラルフの口づけを受け入れ、応えようとする。
そんな私のたどたどしい反応を楽しんでいるかのようにラルフは私を離さなかった。
やっと唇を離した時にはラルフの腕の中でぐったりと体をあずけた状態で。
支えてくれるラルフの腕の中で息を整えていた。
そんな私をラルフは嬉しそうに抱きしめて口を開く。
「辛い想いをさせてすまなかった」
この謝罪はきっと偽りの関係のまま私に辛い想いをさせてしまったことに対してだろう。
「これからも辛い想いをすることがあるかもしれない。けれどその時は僕が全力で君を守る」
その言葉に胸がいっぱいになって、ただ頷くことしかできなかった。
不思議……
胸がスッと軽くなる感覚を覚える。
ラルフがそう言ってくれるだけで安心できる。
瞳から流れる涙はそのままに、微笑みを浮かべラルフの胸に顔を埋める。
そんな二人を淡い月の光が包む。
そして、再び重なった影はしばらく動こうとはしなかった。