輪廻怨縛

自宅マンションの前に車が停まり、挨拶を交わして車から降りる。


オートロックの玄関ホールを抜け、エレベーターを呼ぶボタンを押したときに、それは聞こえてきた。




〔断れ……。次のお勤め……、断るのじゃ……〕




《来た……、いつもの怨み声……》


条件反射的に耳に手を押し当てる。
慌てて首を左右に振るが、周りには誰もいない。


〔会ってはならぬ……。八心思兼には……、会ってはならぬ……〕


膝が笑ってきた。
鼓動が早くなり、気分は落ち着かなくなってくる。


「なに！？　なんなのよ！？　ヤゴコロオモイカネってなんのことなのよ！？」


気付いたときには、頭を左右に振り乱し、喚き散らしているあたしがいた。


とうとう下半身から力が抜けてしまう。


ドスン


と重たい音を発てて、あたしの尻がホールの床に直撃してしまう。


〔八心思兼には……、会ってはならぬ……〕


会うなと言われても、そんなヤゴコロオモイカネなどというものには全く覚えがない。
明日会う予定なのは、河山さんと、司会のアイドルユニットの連中と、川上さんと、番組のスタッフ連中だけだ。