輪廻怨縛
有り得るとしたら、河山さんの通り名か、或は番組のプロデューサーかどちらかだろう。
少なくともアイドルユニットの連中ではないことは確かだ。


ヤゴコロオモイカネ、ヤゴコロオモイカネ……。


だんだん頭が混乱してくる。
運の悪いことに、今、エレベーターホールには一人も人がいない。
何かあっても、誰にも救いを求めることはできないのだ。




こんなときに息が止まってしまったら……。




考えるだけでも恐ろしい。
悶え苦しむ中で薬を手にできたならまだいいが、意識を飛ばすほうが早かったりしたら、おそらくそのまま、声の主と同じ世界に逝ってしまうことになるだろう。




死ぬのは、嫌だ。




〔会ってはならぬ……。お勤めは……、断るのじゃ……。どうしても断らぬとあらば……、息の根を止めるのみ……〕


これはもはや最後通告に近いものだった。
ヤゴコロオモイカネとやらに会うことは、この男にとってよっぽど都合が悪いらしい。


だが、あたしのような漸く売れてきたタレントには、スケジュールをドタキャンする権利など、一切無い。


〔よいな……。断らぬとあらば……、息の根を……、止める……〕




来た……。
死刑宣告。
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