輪廻怨縛
急いでバックを開ける。これを火事場の馬鹿力というのか、それともイタチの最期っ屁というのか、常軌を逸した素早さで動くことができた。
スタートダッシュには成功。
後は発症してしまう前に薬を手にするだけだ。
手にしてしまえば、発症してもすぐに収められる。
探した。
必死になって探した。
だが見つからない。
どこにも無いのだ。
慌てて体中のポケットを叩く。
だめだ。
どこにも固い感触はない。
怨霊は既に、死刑判決を下している。
もう、手段を選んでいる余裕など無かった。
バックを掴み、口を下に向ける。
メイク落としやら手鏡やら携帯電話やら財布やらなんやら、身の回り品がバラバラと床に降り注ぎ、バウンドする。
転がり、拡がっていく。
床から跳ねた手鏡が、鏡面から落ちて破壊音を発てる。
最初の着地で少し破片を散らした携帯電話が、二度目の着地で更なる破片を散らす。
マニキュアの瓶が割れ、コンパクトの蓋が飛ぶ。