輪廻怨縛


今回はちゃんと靴を脱いで、右側ではなく正面のドアのノブを回して引く。


八丈のリビングの真ん中に鎮座する長椅子に「ただいまー!」と叫びながらダイブする。


バウンドした身体が背もたれを少し転がって、クッションの中に沈んだ。


さて、と。


気分も落ち着いてきたし、そろそろまた戦ってみよう。
さっきのメール受信ウインドウと。


まずは薬だ。
あたしは、仕事用とリビング用とベット用の三缶をいつも用意している。
仕事用は今日失くしてしまったが、今は目の前のテーブルの上にリビング用が置いてある。


いつ発症してもいいように、左手にキープしておこう。


ガッチリと缶を掴む。


物理的な準備は万端。


あとは心の準備だけだ。


携帯電話を開く。
相変わらずお札待受のままだった。
勿論メール受信ウインドウも表示されっぱなしである。


   《あれっ?》


何かがおかしい。
どこかがさっきと違う。どこだろう。
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