輪廻怨縛
口元や顎から飛び散った透明な雫が、蛍光灯の光を反射してキラキラと輝きながら、階段に降り注ぐ。
これが涙や汗だったなら、ドラマのワンシーンにも使えそうなぐらい綺麗なシーンだと思うのだが、残念ながらそうはいかない。
だって涎なのだから。
おそらく香織さんの好感度は垂直落下に近い形になってしまうだろう。
本当にこれでよかったのだろうか。
今更ながら、自分のやり方に疑問を持ち始めてしまった。
生放送で倒れること自体が、既に放送事故なのである。
生理的になかなか受け容れてもらえない【物理的に汚い】姿を全国ネットで晒してしまっては、芸能界から干されてしまいかねない。
現時点でもう涎に塗れて充分に汚いが、これ以上呼吸停止状態が続くと更に汚いうえに不快臭までもが伴う、排泄物の失禁が待っているのだ。
この状況に到達してしまったなら、おそらく芸能界で生き延びることは、ほぼ絶望的となるだろう。
わたしは、彼女を潰すことになってしまいかねない状況をプロデュースしてしまったのである。