輪廻怨縛





混乱と恐怖で一杯一杯になったあたしの心を尻目に、身体は至って冷静に「雪奈か?」とシルエットに問い掛ける。


《よかった……。夢なんだ……。》


心から安堵した。
問い掛けた声が間違いなくあたしの声だったのは少々気になるが、心が乱れているのにこんなに落ち着いて対処できる筈がない。
それより何より、【雪奈】などという固有名詞を持つ人物には、全く心当たりがないのだ。


なんだかアドベンチャーゲームをリアルな世界で体験しているようで、妙な気分だった。
まさに究極のバーチャルリアリティといえるだろう。


「はい」


障子が開く。
そこには巫女姿の女がいた。
まだあどけなさの残る顔立ちが、成長途上であるかのような印象を与えている。
おそらくは高校生ぐらいの年齢なのだろう。


「今川方の動きはどうか?」


いまがわ? 今川とはいったい誰のことなのだろう。
この問いを発したのがあたしの声だっただけに、混乱は更に増幅した。


「今川は当主義元を亡なって、混乱の坩堝にあります」


……、今川義元今川義元……、あれか、小学校で習った桶狭間合戦か……。


どうやら時代背景は室町時代の終盤らしい。
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