輪廻怨縛


放送の終了時間が迫ってくる。
今まで全く気にしてはいなかったが、生放送であるため時間枠がきっちりと決まっているのだ。


時計に目をやると、残り一分強といったところに迫っていた。
おそらくそろそろエンドロールが流れ始めるだろう。


せめて、失禁前に終わってくれればいいのだが……。


「心臓まだ動いてますか!?」


『ノムちゃん、香織ちゃんまだ生きてるか!?』


おそらくこのノムちゃんというのが、香織さんの一番近くにいるお姫様抱っこのスタッフなのだろう。


彼の二の腕は涎を浴びてビショビショに濡れていたが、さほどそれを気にしているふうでもなかった。


ノムちゃんは香織さんの胸の谷間に掌を押し当てる。
が、突然手を離し、彼は二つの乳房の間に顔の右半分を潜り込ませてしまった。
おそらく傍目にはセクハラ以外のなんとも思えなかったことだろう。


だが、それは違う。




彼は心臓の上に耳を押し当てたのだ。




それほど、彼女の鼓動が弱まっているということなのである。




やがて、胸の谷間から頭を外したノムちゃんは、カメラから左側に顔の向きを変え、頭を縦に振った。
おそらく福留さんに向かい【まだ生きてます】と知らせたものと思われる。
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