輪廻怨縛
「香織ちゃん、香織ちゃん、局に着いたよ。終点だよ」
突然監督の声が割り込み、大きな横揺れが襲ってくる。
ほんの一瞬意識がブラックアウト。
そしてあたしは、見馴れたロケバスの中へと還ってきた。
いったいなんだったのだろう。
室町時代に雪奈という名の少女……。
あれはあたしの脳内に眠る、単なる妄想だったのだろうか。
いや、それは無い。
だって、今川義元なんて名前は今の今まで忘れていたのだから。
そんな名前は、例え妄想内の登場人物であったとしても出てくる訳が無いのだから。
ではいったいなんだったのだろう。
釈然としない気分のまま、川上マネージャーと落ち合った。
「香織ちゃん、お疲れ」
爽やかな笑顔であたしの荷物を代わりに持ってくれた。
「ごめんなさい、荷物持ちみたいなことさせて……」
「いいよいいよ、これで俺、給料貰ってんだから。いちいち気にしなくていいよ」
「ありがとうごさいます」
普段荷物はあたしが自分で持ち運ぶ。
だが、少しでも疲れているときは、すぐに代わりに持ってくれた。
今ではもう今回のように、会ってすぐ疲れを察してくれるようになっている。
この、細やかな気配りがたまらなく嬉しい。