輪廻怨縛


つまり、隠すのだ。
武田家は、滅亡してもなお、他家に有利になりそうな情報を隠すのである。


ほとんどの家が他所の自治体を隠密部隊として雇っている中、自前でそれを育てることが出来るなら、どれほど余計な出費を抑えることが出来るだろう。


おいらん淵伝説のことを踏まえると、とてもそんな情報が残っているとは思えなかった。


〔だろ? 期待できねえだろ? 実際どこにも残ってねえんだよ、歩き巫女の記述〕


残念ながら雪奈や前世の大村千夏から、現世の大村千夏を探るのは無理なようである。


せめて今は、この【大村千夏】が誰なのかを早いうちに確定させたい。


〔気持ちが焦ってるのは解るけどさ、この時期エントランスホールに立ちっぱって結構寒くね? とっとと家帰ろうぜ、俺寒いんだよ……〕


赤星くんは南国出身なのだろうか。
わたしは北国育ちだから、東京の四月ぐらいならもう暑いぐらいなのだが。


守護神のリクエストもあったため、エレベーターから家へと帰る。
冷蔵庫に直行し、今日も一日お疲れ様の儀式を開始した。


発泡酒を取り出し、一本煽る。


シュワシュワ~っとした喉越し、暑い中で、冷たい液体を体内に注ぎ込む感覚。




正に儀式である。
< 64 / 87 >

この作品をシェア

pagetop