輪廻怨縛


柳瀬香織は芸名で、本名は大村千夏。
大村千夏になる前のあたしは、いったいなんという名前で何時代に生きていたのだろう。
そしてその時代に、いったいどんな足跡を遺してきたのだろう。
どんな家族がいて、どんな友達がいて、どんなふうに暮らしていたのだろう。




そして、どんな人と、どんな恋をしてきたのだろうか……。




考え出すとキリがなかった。
大村千夏になる前のあたし。
どうか、ステキな人生を歩んでいますように……。



「香織ちゃん、あんまり浮かれてちゃだめだよ? 生放送は必ず息が止まっちゃうんだから」


妄想の世界に突入していたあたしを、川上さんの言葉が現実に引き戻す。


「こないだみたいに、涎と泡としょんべんに塗れて失神したりしたら、もう二度と、死ぬまで、半永久的に、生放送のオファー来なくなるんだからね!」


人間という生き物は、老若男女問わず窒息すると、息が止まったそばから涎を垂らし始め、意識が飛ぶと同時に放尿し始める。
あたしはその醜態を、泡吹きまで加えて全国のお茶の間に晒してしまったのだ。
しかも、




ゴールデンタイムに……。
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