恋する季節の後ろ髪
一陣の風。
視界を覆い尽くす――桜、サクラ、さくら。
霞むのは――
ぼやけるのは――
滲むのは――
――つんっ、と込み上げる感傷のせい。
きみにより
思ひならひぬ世の中の
人はこれをや
恋といふらむ
その歌は千片の雪と共に後ろ髪の向こうに舞い去り、
「ごめん。おまたせ……」
「遅い。どんだけまたせるんね……あほ」
わたしは埃を払った言葉を、そこに添えるようにして吹きかけた。
過ぎ去りしときはそのままに。
ただ、この先の道を見つめて。