恋する季節の後ろ髪
非常に難解な問題だ。
まずもってこの問いかけに対する返答をひねり出すだけのウィットに富んだ脳みそをおれは持ち合わせていない。
しかしながら。
何事もなかったように立ち去るのはどうにも敗北者のような気がして今年受験を控えた身としてはいささか“げん”が悪い。
さてどうしたものか。
そう思ったとき、不意に手元のおでんの温もりを思い出した。
「おでんにからしはあってしかるべきだと思うんだよね」
彼女が聞いていようがいまいが、納得しようがしまいが構いやしない。
大事なのは“逃げ出さなかった”という既成事実を作り上げることだ。
だからおれは彼女の反応を待つことなく言葉を続けた。
「でもからしが苦手な人間だっている。だからといってそれはからしの存在を否定するだけの材料にはならないだろう?」
「…………」
「キミのそのパーカーにしてもそうさ。その色はキミにとてもよく似合っているけれど、この夜にふさわしいかどうかといわれれば、ちょっと浮いている気もする」
脊髄反射のように言葉を並べ立てていると、彼女は少しだけ顔を上げた。
それでもまだ、こちらをみる様子はなくぼんやりと前を眺めるだけだけれども。
まぁいいさ。
ひとつ、息を肺に招き入れておれは続ける。
「世の中成否、善悪、白黒が最初から張り付いてるわけじゃない。要はそれが“自分にとってイケてるかイケてないか”だけのことなんじゃないかな」
そしてそれは誰の目にも映らない。
自分だけにしか、映らない。
同じモノをみていたとしても、それが同じである保証もなければ確認のしようが、ない。