恋する季節の後ろ髪
いつの頃からか、雨に濡れてしまうのがひどく煩(わずら)わしくなってしまっていた。
学生の頃はどしゃぶりでもお構いなし。
むしろ薄着の全身を叩くように降る雨に、妙なハイテンションになっていたものだ。
なのに今は天気予報の傘マークに、
「雨かよ……」
なんて悪態をつぶやきながら気だるく朝の支度をしてしまう。
梅雨の長雨。
鬱々とした灰色のカーテン。
薄もやを前に四散するテールランプの赤い尻尾。
くるくると、楽しげに色とりどりの傘が踊る通学路。
雨宿りのはずが思いの外長居してしまうファストフードの店内に漂うアンニュイな空気。
そのどれもが、煩わしい。
ただ、そんな俺にもひとつだけ。
たったひとつだけ、頬を緩ませるものがある。
――紫陽花。
この時季になるといったいいつからそこにいたんだと疑いたくなるほど、唐突に存在感を増す花。
なのに決して過度の自己主張はしない花。
実は花と思っている部分は“ガク”というところも、またいい。
この“花”が好きになったのはいつからだろう……。
あぁそうだ――あいつと別れた後になってからだったな。