恋する季節の後ろ髪
「おぅ。遅かったじゃないか。なんだ“でかい方”か?」
頭のてっぺんまでご機嫌な色に染めた部長がゆるみきったネクタイと腹で声をかけてきた。
この野郎と同じように酔えれば脳天に焼き鳥の串を突き刺して“植毛”をしてやれるのだが、
「ま、そんなとこです」
いくら呑んでも思考だけは正常な体質の俺はそいつを無難にやり過ごすだけ。
まったく。
損な体質だ。
席に戻るもいい加減酒はうんざりだし食べ物に手をつける気にもならない。
ろれつの回っていない会話に混ざるのも、もう面倒。
(やれやれ……)
いったい後どれくらいここにいなきゃいけないのだろうか。
いっそ適当な理由でも作って帰ってしまえばいいのだろうが、そういう作り話はどうにも苦手。
まったく。
損な脳みそだ。
仕方なく俺は両手を後ろについて空を仰ぐ。
胸やけのする酒池肉林の空気を抜けた視線は雲ひとつない鮮やかなそれに手を伸ばす。
けれど決してつかむことは出来ない。
“人付き合い”という足かせは思いのほか、重い。
「ふぅ……」
代わりにアルコール臭い息を飛ばしてみても、ため息じゃ視線の先にすら飛べやしない。
そんなときだった。