恋する季節の後ろ髪
ケンカのきっかけは本当に他愛のないこと。
ショートケーキの食べ方。
苺を最後まで残すか残さないか、そんな本当に他愛のないこと。
それでもそんなことくらいでケンカをしちゃったのにはワケがある。
わたしたちが付き合い始めて5年。
それはお互いの部屋両方にお気に入りのマグカップがあったり、歯ブラシがあったり、下着の替えがあったり。
それから、お決まりの特等席が出来るくらいには長い、時間。
けれど、けれどもだわ。
その5年というのは“学生時代”の5年とは持つ意味がまるで違う。
まして、男の5年と女の5年とでは重さも違う。
あえていうならば、男の“三十路前”と女の“三十路前”ともなれば、またさらに、だ。
女のそれは決断を迫られる。
なのに彼ときたらそんなこちらの心中なんて気付きもしない。
ケンカの理由はささいなこと。
でもささいなことで怒れる理由は大きなこと。
「はぁ……」
隣りで呑気な寝息を立てる彼の顔を眺めて、溜息を吐くようになったのはいつからだろう。
愛しさと、もどかしさと。
その割合が目に見えるなら、いったいどちらの方が大きいのか。
かといって、その不安をはっきりと口に出来ない部分もある。
ということはつまり、まだ愛しさの方が勝っているということなのだろう。
惚れた方が負けとはよくいったものだ。
「この、甲斐性なし」
悔しくなって鼻をぶにっ、とつまんでやる。
と、
「ん、んー……かにみそは、最後がいい……」
なんだそりゃ。
「もう……ばか」