恋する季節の後ろ髪
明日になればきっと彼は私が目を覚ますと同時に、
「昨日は、ごめんな」
なんて無条件で謝罪してきて優しいキスをおでこにしてくれるのだろう。
それでまた、不毛で、でもあったかい1日が始まる。
つまるところ、その程度で機嫌が良くなる私も私なのだ。
だからせめてもの抵抗。
「おいしい珈琲淹れてくれたら、ゆるしてあげる」
出口の見えない迷路だけれど。
「かしこまりました」
それはとても居心地のいい場所で。
「あ、砂糖は抜きで──」
抜け出したいような、まだこのままでいたいような。
「ミルクたっぷり、だろ?」
繰り返す、変わらない日々の中で私たちはケンカをしながら、寄り添っている。
「うん」
煮え切らない態度に不満はあるけれど、それも、
「おまたせ」
彼のこのひとことで、
「ん……おいし」
ミルクが交わるときのように、やさしい色合いに変わるのだ。
まったく、ずるいなぁ。
こっちはいつ“衣装合わせ”があってもいいように、陰ながら努力だってしてるのよ?
肌の“ハリ”を保つためにどれだけコスメに気を使ってるの思ってるの?
ほんとはジャンクフードが大好物なのに、月何回って制限してるのよ?
それなのにアナタはすぐ“ピザ”とか出前したがるし。
給料日には大体焼肉。
そこはこう、日本語が書いてないメニューの店とか、ねぇ?
そりゃ、まぁ、ふたりとも日本語しかわからないけれども。
いやいや、気持ちの問題よ。
気持ちの問題。
「ところでさ」
はぁ……
「なぁに?」
あと何回、この珈琲の美味しさに誤魔化されていられるのかしら。