恋する季節の後ろ髪
こういう場も、たまには悪くないのかもしれない。
ふっ、とはいた息と入れ替わるようにして火照った顔にそよぐ桜のにおい。
その先には彼女の姿。
眉根を少し寄せて上司の“くだ”に律儀に相づちを打つ様がなんだか妙に愛らしい。
普段制服姿しか見ていないからか、新鮮さも加味されているのだろう。
と、
(――)
不意に視線が合った。
(ここで慌てて視線を外すのも何だか、な)
あえてそのまま見つめてみる。
すると彼女の方が慌てて、うつむきながらコップに口をつけ視線を外した。
その頭にひらり、とひとひらの桜が乗っかって、
「くっくっくっ」
どうやら気付く様子はない。
周りの酔っ払い共もまだ気付いていないようだが、まぁそれも時間の問題だろう。
きっと気付かれ次第恰好の酒の肴にされるのは間違いない。
「よっ、と……」
立ち上がる。
脂っこい唐揚げはとうに飽き飽きしていたところでもある。
何より他のやつらに食べさせるには、惜しいじゃないか。
途中、唐揚げよりも脂っこくなって転がった部長の腹をまたぎながら思う。
(俺ってこんな性格だったっけか?)
思いの外酔いが回っているのかもしれない。
だがおそらくはそれともうひとつ。
この満開の桜のせいもあるのだろう。
ただ、まぁ、悪くはない。