恋する季節の後ろ髪
桜の花には何か不思議な力がある。
駆け足で日常を通り過ぎようとする心を立ち止まらせたり。
はたまたつま先に張り付いた視線を“ひっぺがして”新しい足跡を作らせたり。
昨日と今日の景色が違う色で見えたり。
それは頬の紅潮を予感させる淡い色のせいなのだろうか。
それともくすぶる胸の内の1番奥に染み込む薫りのせい?
いや、おそらくは――
「花びらの髪飾りとは、なかなか洒落てるじゃないか」
「えっ?」
――彼女の髪に良く似合うせいなのだろう。