Parting tears
 見た瞬間、私は愕然として言葉も見つからずにいると、武山は云った。


「俺と付き合ってくれないかな? 元彼みたいに、いつ電話しろとか、誰と会うなとか云わないからさ」


 こんな状況で武山の話しを上の空で聞いていた私は頷いてしまった。

 それから私は、武山と付き合ったのだが、特に彼氏という雰囲気でもなく、ただ、たまに会って話すくらいのものだった。それも本当に暇な時だけ。武山を好きでもないし、一緒にいて楽しいとも思えなかったのだから。どちらかというと嫌いだった。それならどうして付き合ったんだと訊かれれば、答えに困るだろう。和哉に裏切られていたことを知り、自暴自棄になっていたのだから。冷静に考えることなど、到底その時の私には出来なかった。今考えると、自分を責めていたのかもしれない。

 そんなふうだったから、私は武山と半年も経たない間に別れた。


「別れてくれない? 元々好きじゃないし」


「どうしてそんなこと云うんだよ。自由にさせてたじゃないか。俺は別れない。結麻とやっと付き合えたのに」


「うざい。だいたいあんたと会うことさえなかったら、私の人生違ってた」


 私は武山を憎しみのこもった目で見ながら、抑揚のない声で云うと、武山は気持ち悪い顔で泣き出したのである。私が去ろうとすると、腕を掴まれたので思わず拳で顔面を殴ってしまった。


「二度と私に話しかけないで」


 そして武山とは終わった。
 どうしてここまで私が相手に冷たく出来たのかというと、真相を知ったからである。
 和哉は私を裏切ってなどいなかったこと。美久との写真は合成だったこと。
 
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