午前0時のシンデレラ

ただひたすら、走って、走って。


頭の中に浮かぶ、泉さんと花蓮さんの笑顔を、必死に目を瞑って消そうとした。



屋敷の中に入り、あたしが向かった先は、自分の部屋じゃなかった。


乱暴に扉を叩くと、数秒後に眠そうな顔が現れる。


「…んあ?お前何して…」


柳の顔を見た途端、あたしはその体に飛び込んだ。


何でか分からないけど、柳の顔が見たくて。


気づいたら、柳の部屋の前にいたの。


「……どうした?」


落ち着いた声音が頭上から降ってきて、あたしは柳の腰に巻いた腕の力を強めた。


心地良い体温、心地良い心臓の鼓動。



「―――――…抱いて」



その言葉は、するりとあたしの口から出た。


一瞬の沈黙の後、柳の力強い腕が、あたしを抱きしめる。


「…違う」


あたしは腕をほどくと、柳の瞳をじっと見つめた。


「…意味、分かるでしょ?」


柳の瞳が、僅かに揺れる。


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