午前0時のシンデレラ
あたしの瞳に映るのは、森と、闇。
それを仄かに照らす月だけ。
…あいつの姿は、どこにもない。
その事実に安心すると、屋敷から午前0時を告げる鐘の音が耳に届いた。
「…急がなきゃ」
あたしは大地を蹴ると、森の中へと迷わず駆け出した。
森の中を走ること、15分。
小さく見えてきた看板に、あたしの気持ちは軽くなってくる。
―――"シンデレラ"
そう英語で書かれた看板の奥には、小さなお店。
…そこは、あたしの大好きな居場所。
「こんばんはー…」
遠慮がちにお店に入ると、ドアについている鈴が可愛い音を立てる。
その音が聞こえたのか、奥から足音が近づいてきた。
「咲良さん、いらっしゃい」
そう言って微笑んだのは、このお店…カフェのオーナー、泉さん。
泉さんはあたしより5つ歳上の23歳。
身長は高く、栗色の髪は少しパーマがかっていて、黒ぶち眼鏡がよく似合う。