午前0時のシンデレラ

本当は、もっと一緒にいたい。


でも、そんなのはあたしのわがままで。


「はい、帰ります。ありがとうございましたっ」


そう笑顔を向けることが、今のあたしにできる精一杯のことだった。



お店を出ると、肌寒さを感じて身震いする。


腕で身体を覆いながら少し歩いて、足を止める。


「…"シンデレラ"」


視界に入った看板の文字を、あたしは小さく呟いた。


あたしが魔法をかけられるのは、泉さんに会える間だけ。


今この瞬間、もうあたしの魔法は溶けた。



振り返ろうと思って、やめた。


だってお店を見たら、また会いたくなるから。


「………」


ため息をついて、屋敷への道のりに足を踏み出した…そのとき。



「―――ずいぶん長居してたな」



聞こえてきた声が信じられなくて、あたしは身体が硬直した。


信じたくない現実が、目の前にあった。


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