大好きな君にエールを





永松が壁にボールを投げる姿が目に入った。俺が永松のフォームとバックの背景に見とれていると


「んな見てる暇があるなら、球取れ」


命令口調に聞こえるけど、永松なりの気配り。俺はニッと笑ってグローブを手にした。


ビュンッ


永松のボールが風を切って俺の手の中へ運ばれてくる。何度、この球を取っただろう。


「どうだ?」


「何が?」


「昨年の夏の県予選前日の球よりどうだったか聞いてんだよ」


あ、思い出した。確か永松は、昨年の県予選前日には、震えたボールを俺に投げてきた。そして初めて…弱音を聞いた。


エースの弱音なんて貴重だ。だから耳に焼きつけていたんだ。


「全然いいっ。それに、風も一緒に送り込まれてるっ!」


俺が叫ぶと永松が帽子を深くかぶった。永松の合図。嬉しくて照れた時にする癖だ。







< 405 / 526 >

この作品をシェア

pagetop