大好きな君にエールを
──side*康也──
一瞬、空耳か?と首を傾げた。だけど空耳なんかじゃなかったと確信できる。
『かっ飛ばせぇー、あーらーちゃーんっ!!』
吹部の演奏とスタンドの声援をくぐり抜けて聞こえた、声。あれは確かに麻帆の声だった。
…それに、荒ちゃんって呼ぶのは麻帆しかいない。そう考えると、ふっと笑いが込み上げてきた。
ったく、やってくれんじゃんよ、麻帆。でもお前のエール、バッチリ届いたからな。
俺はバットを握りしめて、ピッチャーを見た。余裕と不安が漂う表情。そんな簡単な壁、今すぐブチ破ってやる。
ピッチャーが投げる。俺は何も考えずにバットを振った。
カキーン
爽快な金属音がした。あぁ…俺、打ったんだなと思い、バットを手放した。
太陽の光が眩しくて、ボールの行方がわからない。それでも1塁へと走った。