王国ファンタジア【氷炎の民】外伝~新生~
第5章 片想い
 氷炎の民の住まうここにも秋は巡ってくる。
 色づいた木々を、窓からベッドの上で眺めながらメイリアはため息をついた。
 ここ最近、体調が悪い。
 夏の終わりに引いた風邪をこじらせて、それが長引いていた。
 子どもらしい丸みを帯びていた頬は削げてしまい、尖った顎の線とあいまってとても14歳の少女には見えなくなってしまっていた。
 健康的だった顔色も今や血の気を失い青白い。鼻の周りにある雀斑がよけいに目立つ始末だ。細く白い手にも骨が浮き出していた。
 それでも回復はかなりしていたのだが、まだ夕方になると熱が出てきて、メイリアはベッドから出してもらえなかった。

「メイリア、お見舞いよ」

 部屋に入ってきた母親が声を掛ける。

「だれ?」

 メイリアの母はにっこりと笑った。

「サレンス様」
「ふうん」

 メイリアは気のない風に相槌を打つ。
 1年前くらい前に彼女はサレンスの正体、神の器であることを両親から聞かされていた。
 最初は驚いて、どう彼と接していいかわからくなった彼女だったが、やがていつも通りに接していればいいことに気づいた。彼女が知っていようが知るまいが、サレンスはずっとサレンスで、可愛らしい小さな子どもに過ぎなかった。

「お通しするわよ」
「うん」

 いったん肯定しておいて、メイリアははっとする。

「もしかして、レジアスも?」
「もしかしなくても、そうよ」

 にんまりと笑う母に、メイリアは思わず枕を投げつける。
 軽やかに枕をかわす彼女は娘の気持ちなど先刻承知だった。

「だめ、絶対だめ」
「おやおや、乱暴な子だこと」

 わざとらしく軽くため息をつきながら、彼女は床に落ちた枕を拾い、娘の膝の上におく。

「おしとやかにしないと嫌われるわよ」

 頬を赤く染めて、娘は口を尖らした。

「別にいいもの」

 今更、好かれているとも思えない。ひょっとしなくても嫌われているに決まっている。けれど、それでも今のやつれた姿を見せたくなかった。
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