王国ファンタジア【氷炎の民】外伝~新生~
エピローグ
夕暮れ。
闇と光が交じり合う黄昏のとき。
レジアスは一人庭に出ていた。
庭にはメイリアが丹精こめて育てた花々が甘い匂いを放って咲いている。
(「この花たちが満開になるころに、きっとこの子は生まれてくるわ」)
記憶の中でにっこりと笑うメイリア。
彼女の言葉通り、けれど主を失ったとも知らず、ただ咲き誇る花々。
今の彼にはただ残酷な光景でしかなかった。
知らず花々の前に膝を落とす。
と、背後に気配がする。
振り仰げば、そこにはきらめく銀の髪の少年。
レジアスは僅かに青い瞳を見開いた。
「サレンス様? いえ、<サレンス>様のほうですか?」
声が震えそうになるのを必死に押さえる。
「さすがに気づいたか」
ゆったりと微笑む少年はレジアスの知るサレンスであってサレンスではない。氷炎の民の守護神<サレンス>であった。
しかし、彼は本来、氷炎の民の危機に<導き手>の呼びかけに答えてしか姿があらわさないはずだった。
「私は喚んでいませんよ」
幾分きつめのレジアスの声に、<サレンス>は穏やかに答える。
「喚んだよ、お前は」
「そうですか」
そのまま黙ってしまうレジアスを<サレンス>はしばし黙って見下ろしていたが、ふいに手を伸ばし、青年の癖のある白銀のやわらかな髪をなでる。
「慰めているおつもりですか?」
「そのつもりだが」
「だったら……」
レジアスの言葉の先回りをするように、手を引っ込めた彼は凛然と答える。
「それはできないよ」
明確な拒絶であった。
しかし、レジアスはあきらめきれなかった。
とても簡単にあきらめられるようなことではなかった。
食い下がらずにはいられなかった。
「あなたは神様でしょう。できないことなんてあるんですか?」
「たくさんあるよ」
薄闇の中、常よりも深い色合いを帯びた凍青の瞳がレジアスを見下ろす。
ゆっくりと言葉がつむがれる。
闇と光が交じり合う黄昏のとき。
レジアスは一人庭に出ていた。
庭にはメイリアが丹精こめて育てた花々が甘い匂いを放って咲いている。
(「この花たちが満開になるころに、きっとこの子は生まれてくるわ」)
記憶の中でにっこりと笑うメイリア。
彼女の言葉通り、けれど主を失ったとも知らず、ただ咲き誇る花々。
今の彼にはただ残酷な光景でしかなかった。
知らず花々の前に膝を落とす。
と、背後に気配がする。
振り仰げば、そこにはきらめく銀の髪の少年。
レジアスは僅かに青い瞳を見開いた。
「サレンス様? いえ、<サレンス>様のほうですか?」
声が震えそうになるのを必死に押さえる。
「さすがに気づいたか」
ゆったりと微笑む少年はレジアスの知るサレンスであってサレンスではない。氷炎の民の守護神<サレンス>であった。
しかし、彼は本来、氷炎の民の危機に<導き手>の呼びかけに答えてしか姿があらわさないはずだった。
「私は喚んでいませんよ」
幾分きつめのレジアスの声に、<サレンス>は穏やかに答える。
「喚んだよ、お前は」
「そうですか」
そのまま黙ってしまうレジアスを<サレンス>はしばし黙って見下ろしていたが、ふいに手を伸ばし、青年の癖のある白銀のやわらかな髪をなでる。
「慰めているおつもりですか?」
「そのつもりだが」
「だったら……」
レジアスの言葉の先回りをするように、手を引っ込めた彼は凛然と答える。
「それはできないよ」
明確な拒絶であった。
しかし、レジアスはあきらめきれなかった。
とても簡単にあきらめられるようなことではなかった。
食い下がらずにはいられなかった。
「あなたは神様でしょう。できないことなんてあるんですか?」
「たくさんあるよ」
薄闇の中、常よりも深い色合いを帯びた凍青の瞳がレジアスを見下ろす。
ゆっくりと言葉がつむがれる。